僕は幽霊ってやつだ。
何をされて死んだのかは分からない。
気付いたら死んでいた、というのが正しい。

本来なら、死人は「あの世」とやらに行くんだろう。
ファンタジーの世界じゃあるまいし、そんな場所は無いと思っていたんだけどね。
でも僕はここにいる。誰にも気付かれないけれど。

人間や壁をすり抜けられる、体は半透明。
そんなことが我が身に起こったら、誰だって自分は幽霊なんだって自覚する。
だって死んだことは憶えているんだから。

色々な場所に行けるってことは、自縛霊ではないみたい。
現に僕は、エジプトから日本に来たのだから。
いや、それじゃあ正確じゃないかな。
日本のとある県にある、とある人の家って言った方が良いかな。
和風の邸宅だ。むしろ武家屋敷。

この家で、僕は君によって生かされた。
感謝してるよ。
本当に感謝してる。

浮かない顔の君が、家を出る。
ここのところ、君は毎日そんな表情だ。
僕がこの家にきてから、君は片手で数えられるほどしか笑っていない。

君には笑っていて欲しいのに。
もしかして、家の中。
君は、部屋で、泣いていないかい? 独りで泣いていないかい?
涙を流すことだけが、泣くということじゃないよ。
君はやさしいから、でも押し殺してしまうから
心配だよ。

エジプトでの出来事は、やさしい君に大きな傷を残してしまった。
それは仲間の死のせいでもあっただろうし、それだけでなく多くのものが失われたせいでもあるだろう。
声をかけることが出来たら、どれだけ良いだろう。

でも君が僕に気付くことはないだろう。
本当は、気付いてほしいけど。
やっぱり気付かれないように、僕は君を見守っているよ。
それくらい、しても良いだろう?

でももし、君が僕に気付くことがあったなら。
君はなんて言うかな。
怒るかな? …悲しむかな。
でも僕に後悔はないんだ。
未練は意外と残ってたみたいだけどね。

学校へ向かう君の後姿を見送る。
あの隣に、今、僕も立っていられたならどれだけ嬉しかっただろう。

君が好きだよ、大好きだよ。

だから笑ってほしい。
笑っていてほしいよ。
そして幸せになって。
誰よりも幸せになって。


君に降り注ぐすべてが 正しい 優しいであれ