(2)の続きです。
DIO×承太郎で流血表現を含みます。
読んでも良いよ、という方は以下へどうぞです。





Quälerei (3)
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身震いが、した。
寒いのでも、恐怖を覚えたわけでもない。
嫌悪感でだ。



何も無い部屋、窓も存在しないため太陽の光さえ入らない。今が一体何時で、そして世界はどういう風に動いているのか。DIOが全て支配したのか、それとも誰かが抗っているのか。
承太郎には、何一つとして知るすべは無い。
日ごと一日という感覚を失っていき、閑暇を持て余した。
たまの来客といえば、当然のようにDIOの部下たちだった。しかし彼らは、承太郎にろくなことをしない。もっとも、一番ろくなことをしないのは、DIOだったが。
正直なところ、誰もきて欲しくないというのが切実なる願いだ。暇は暇だったが、神経が磨り減るくらいなら時間が有り余っている方がましだった。

何もしない、出来ない時間だけが過ぎていく。ベッドに転がり、何をするでもなく天井を見つめていた。
考えることを、まだ放棄はしていない。解決の糸口は見つからなかったが、それでも思考の停止は敗北と同義だ。
折られた腕は治りつつある。この腕が治り、何か有用な作戦を用いてDIOに挑めば勝てるだろうか。
承太郎は目を閉じて考える。一つの物音さえしない部屋で、自分の呼吸音だけを聞いて、相手のスタンド能力に思考を巡らせる。


思考している内に眠りに落ちることはままある。
この時も、そうだった。
冷たい手に触れられるまで、DIOが部屋を訪れ、承太郎の横たわるベッドに腰掛けているのに気付かなかった。
慌てて起き上がり、片腕を使えないという覚束ない動きで距離をとる。そんな承太郎の行動を、DIOは嗤って見ているだけだった。

――そのまま寝ておけば良いものを。

言って、DIOがその手を承太郎に伸ばす。身を引いたが、そんな行動は無駄でしかなかった。
鋭い爪に、折られた上腕部が抉り取られる。食い込むと同時に鮮血が溢れ出、鋭い痛みが走った。肉の千切れる音がして、承太郎の口から小さく呻き声が零れる。顔を顰め、流れ出る血を抑えようとその傷に手を当てると疼痛がした。
抉り取ったその肉片を、DIOはゆっくりと口に運ぶ。滴る血ごと、肉を咀嚼して嚥下した。赤い唇の端から、少しだけその血が垂れる。

少々固いが…、悪くない。
やはりお前のものなら、血だけでなくその身も美味いのだな。

しゃあしゃあと笑って言ってのけるDIOに憎悪と怒りが沸き上がると同時に、背筋が粟立った。
――人の肉を喰った上に、こいつは何を言っている?
それが嫌悪感だと気付かぬ間に、承太郎は叫んだ。

調子に乗るんじゃねぇ!

同時に、スタンドを現し殴りかかった。
腕の痛みなど忘れていた。

殴り抜けたと思ったが、それは空振りに終わった。目の前には、変わらず笑うDIOの姿がある。
少しだけ、先ほどとは座っている位置が違うようだった。目測を誤ったというのか、承太郎には分からない。
眼を見開く承太郎を嘲笑うかのように、瞬きの間に目前にDIOのスタンドが現れる。そしてその拳が、鳩尾めがけて繰り出される。
避けることも防ぐことも出来ずに、承太郎は真正面からその拳を受けてしまった。
重い一撃に、息が詰まる。
一時の後、血反吐と胃液が吐き出された。

いい加減に、私に敵わないということを学んではどうだ?

やけに楽しそうな声が、頭上で響いた。
うずくまる承太郎の側に屈み、諭すようにDIOが囁く。
逆らっても無駄だと。

承太郎は白くなるほどに唇を噛む。
どれだけ打ちのめされても、それでも認めるわけにはいかなかった。認めてしまえば、全てが瓦解して無に帰してしまう。
仲間の死も、自分というものも、DIOに対する憎悪も。
屈服も服従も、選択肢には無い。

歯を食い縛り、すぐ側にいるDIOを睨みつける。
ありったけの憎悪を籠めて。

必ずぶっ殺してやる…ッ

血反吐を吐くような言葉にも、吸血鬼は愛おしむように笑むだけだ。

――お前には出来ないよ、承太郎。
そうなる前に、私がお前を殺してしまうよ。

怨嗟の言葉に首を振り、あやすようにDIOが囁く。その台詞に、カッと頭に血が上った。

死ぬなら、テメェも道連れだ!

渦巻く感情に任せて、承太郎が叫ぶ。
その感情が、かえってDIOを喜ばせているとは夢にも思わないで。
DIOが喜悦に微笑み、すぐ傍に居る承太郎の目を覗き込んだ。昏い目に見つめられて、全ての動きが止まる。

――嬉しいよ、承太郎。本当に嬉しい。

呟きと共にそっと頬が撫でられて、身震いが、した。


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もうダメかもしれない。