今日はバレンタインデー。
一体誰の陰謀か、この日はチョコレートに思いを乗せて多くの人々が惑う。


まだまだ寒さの厳しいヴァレー空軍基地で、例に漏れず惑っている男がいた。
しかし、その戸惑いは想定外の出来事によるものだ。
目の前でにっこりと微笑んでいるのは誰を隠そう、鬼神そのひとだった。

「よう、片羽。」
「相棒。…どうしたんだ? 俺に何か用か?」
「ああ。大事な用だ。」

伏目がちに言うサイファーを見て、ピクシーの内心で期待が高まった。
まさか。ひょっとして。
ハロウィンの時は釣れなかったが、やはり今日はバレンタイン。
いつも意地っ張りな鬼神もさすがに素直になるということか。
ピクシーは緩む頬を必死に叱咤した。
そうしている内に、サイファーが小さな白い箱を取り出す。

「これ、良かったら食ってくれねぇか…。」
「あ、相棒…。これはもしかして…。」

聞くと、サイファーは照れ臭そうに笑った。

「俺の気持ちをたっぷりこめたんだ。今食ってくれると嬉しい。」

その言葉に舞い上がったピクシーは受け取るや否や蓋を開ける。
小さなトリュフが6つ入っていた。
恐らく第「6」航空師団にあやかっているのだろう。
1つ取り上げると、ピクシーは目の前にそれを持ってきて感慨深げに眺めた。

「遠慮すんな。たぁんと召し上がれ。」

鬼神がにっこりと笑う。
ピクシーは周りに花でも散らしそうな勢いで笑顔になり、何も疑うことなく、チョコレートを口に運んだ。
柔らかいチョコレートを噛む。
幸せだった。
ついにサイファーも自分の気持ちに応えてくれる気になったのかと思うと、頬が緩むのを抑えきれない。
チョコレートの中に包まれていたものが、ピクシーの舌の上にぽろりと落ち、つい噛んでしまう。

「か!!!…お、お、お前これ…こ…か…」

その瞬間に固まり、涙目になったピクシーをとてつも無く冷たい微笑が迎える。

「全部食えよ?」

俺の特製、ハバネロ入りビターチョコ。

鬼神の囁きは、浮かれた純情なピクシーの心をぶち壊すには十分すぎる破壊力を持っていた。



「ピクシーにあげたチョコに込めた気持ちって、何だったんすか?」

PJが無邪気な顔で聞いてくる。
彼の手の中の箱には、彼女からもらったらしい不格好なチョコレートがいくつか。
それを見下ろしながら、鬼神はにっこり微笑んだ。

「秘密。」



Happy Valentine's Day!