明日はバレンタインデー。 一体誰の陰謀か、その日はチョコレートに思いを乗せて多くの人々が惑う。 13日の夜、空条承太郎は柄にもなくうろたえた。 目の前にいる金髪の吸血鬼が差し出したものが、あまりにも似つかわしくなかったからだ。 「承太郎、良かったらこれを食え。」 差し出されたものはおおよそDIOに不釣り合いな…綺麗にラッピングされたチョコレートだった。 「……お前、こんなの何処で拾ってきたんだよ?」 不信も露わに言うと、心外だと言わんばかりにDIOが口をへの字に曲げた。 「拾ったのではない、買ったのだ。」 「買った……?」 文無しのはずの吸血鬼が、丁寧にラッピングされたチョコレートを、買った。 何処からつっこんで良いのか承太郎には分からない。 ジョセフ辺りなら上手い切り返し方をするのかもしれない、と何故か遠い地にいる祖父を思い出した。 呆然としている承太郎に、DIOは憮然とした表情で返す。 「もうじきチョコレートを渡しながら愛の告白をするバレンタインデーとかいうやつなのだろう?」 「それは駄菓子屋の陰謀で……。…やれやれだぜ…。」 説明するのも面倒で、思わず帽子を深く被り直す。 ひとの気持ちを後押しするようなイベントは決して悪くないが、だからと言ってDIOまで毒されるとは思っていなかった。 承太郎は気付かれないように溜息をつく。 「違うのか? まあ良かろう。 このDIOの愛を受け取るが良い。」 ふんぞり返ってチョコレートを差し出すDIOを横目で見る。 甘いものは決して嫌いではない。 それに何より、これから学校の課題をしなければならない。頭を使うのに甘味は必要不可欠だ。 ある意味タイミングが良いのではないだろうか。 承太郎は心中でチョコレートを受け取る言い訳をする。 もちろんDIOには決して悟られないように。 「……まぁもらっといてやる。」 「承太郎…! 私はてっきり叩き割られるかと思っていたぞ!」 DIOの手からチョコレートを受け取ると、途端に吸血鬼の顔が輝きだす。 確かに普段の承太郎のつれなさを考えれば、チョコレートの一枚や二枚、叩き割られていてもおかしくない。 あまりの嬉しさにDIOは両手を広げて、承太郎に飛びつこうとした。 「さすが私の承太郎だッ! 今日はお前と寝」 「スタープラチナッ!」 もちろん精確無比なスタンドに阻まれてしまったが。 しかし顔面を殴られて失神したDIOの顔は、やけに幸せそうだった。 そして部屋に戻り、課題を始めた承太郎は、机上に置いたチョコレートを視界の端に留め、照れ臭そうに小さく笑った。 Happy Valentine's Day! |